アンラッキーな出来事

自動車の整備をしていて、これは気の毒と言うシチュエーションに当たる事がまれにあります。
今回はまさしくその内容を地で行く感じ。

エンジンが時々かからなくなるという訴えを相談いただいて、じゃあ一度お預かりしてみますか
とな言うハナシになり、入庫を打ち合わせていたら、もうエンジンがかからなくなりました。とエマ-ジェンシーな内容に早変わり
レッカーでの入庫と相成ったわけです。

ここに至る流れとしては、以前、詳しい原因は失念しましたが、スターターモーターを専門店で交換してもらったとのこと。
その後時々、エンジンがかからなくなる症状に悩まされ続けたと。
スターターを交換したお店では、そもそもすぐに壊れるようなインチキな品ではなく、ちゃんとしたメーカーの物だからスターターが原因とは考えにくい。
と、他の部分をちょっとちょっと修理していったけど、完治に至らなく、今回ついに不動になってしまった。さらに、エンジンがかかる時はギャリギャリ~ンとかなり大きな音がするとも付け加えてありました。

さて、僕はこの限られた情報の中で、選択肢は1択と考えていましたが
さらにその後、別の専門店ではスターターモーターとフライホイールのリングギアが少し欠けているので、それらが原因ではないかと?
そこで修理の予約をしたが、混んでいるので1か月待ちとなった、ともあります。

確かにリングギアが部分的に欠けてしまい、ちょうどその部分にスターターのドライブピニオンが嵌れば、ピニオンは空回りして、しかもすぐ近くのリングギアの山にピニオンが当たりギャリギャリーンと激しい異音を振り撒きながらエンジンがかかる、と言うのもありえなくはない。
しかし、ユーザーの訴えではスターターそのものが回っていないようなので、これはやっぱりスターターモーターだろうなあ、となりました

エンジンがかからないので、工場の前に置いて、ジャッキで持ち上げてピニオンが飛び出す信号線に12Vが来ているのか、確認しようと。
しかし、位置的に遠く、なかなか見るのが難しいです。
やむを得ず、スターターをひっぱたいて、動いたらスターターモーター。動かなかったら次のステップとすることになり
僕がエンジンキーを回し、イナリ君がスターターをドライバーとハンマーで叩くと、勢いよく回り、何事もなかったかのようにエンジンがかかりました。

しかし… エンジンを切って、しばらく置くと再びかからなくなり、タイヤを外してからでないとかからない為にすぐに交換作業ができるように、部品を手配して、E君のところで、交換作業するように運びました。

ここで、スターターモーターの仕組みをおさらい。

2つのイラストを見ると判り易いのですが、スターターモーターはそれ自体がリレーのような仕組みを持っています。
エンジンキーをスタートの所にもっていくとプルインコイルに12Vが流れてテコの仕組みを持つフォークを引っ張ります。
それと同時にコンダクタープレートが電極に接触し、本体のモーターに給電されて、スターターモーターが回る仕組みです。
つまり、ドライブピニオンが飛び出てるのと、モーターが回るのは必ずセットで行われるのです。
絶対に構造上、モーターだけがウイーンと回る事はあり得ないのです。

翻ってくだんのカングー。スターターをはたくと、回るというのはプルインコイルが良くないのか、プリングシャフトの動きが悪いのかまではわかりませんが、どうやらそこがげんいんである事は間違いなさそうです。

フライホイールを一周見てみます。

クランクシャフトを回して、リングギアの状態を確認してみます。
確かに一部が削れているようにも見えます

しかし完全に歯が欠けているようなところもありませんし
使用に問題があるようには見えないので、ユーザーにモーターの交換だけで対応する旨をお伝えして作業に入ります。

目論見はまんまと当たって全く異音はせず、しっかり回るようになりました。

もうほとんど作業がおわってしまったので途中画像がありませんで…
マニュアルには片側のストラット、ドライブシャフトを外せとなっていましたが、他の部分を外して作業しました。
うまく行って良かった

今回騒動の元は

この真新しいスターター君でした。つまりこれは初期不良だったと言えると思います。
しかし取り付けた所もおそらく、到底そんな安物を付けたわけではないので、そんな事あり得ないと思ったのでしょう。
これは判断が難しく、作業を行った工場を責める事はできないでしょう。アンラッキーだったとしか言いようがありません
無理もない事です。僕らも経験がありますから。でもこうして人や場所が変われば視点も変わります。

結果として原因がわかり、ユーザーは次のステップに進むことができるようになります。

僕らもかなりの数の修理を行いますが、中には上手く修理が行かないクルマや見立て違いのクルマもあります。
それは全知全能の整備士なんていませんから、どこにでもある事なのです。

なぜか上手く行かないクルマ、人、タイミング、部品。上手く行かない要素はいっぱいありますから
僕らも頑張って日々鍛錬しないとです。

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